幸せを呼ぶ色
怨霊が放った攻撃が花梨を襲う。


強弓から射放たれた矢のような速さで、真っ直ぐに自分目掛けて押し寄せて来る風の力を避けることが出来ないと判断した花梨の口から、思わず悲鳴が漏れていた。咄嗟に腕で顔を庇って目を瞑り、一瞬後には自分を襲うであろう衝撃を待った。
しかし、怨霊の攻撃が届く寸前、立っているのがやっとというくらいに吹き付けていた風が、ぴたりと止んだ。

不審に思い、恐る恐る目を開けた花梨のすぐ目の前を、風の刃に断ち切られた紺藍色の紐が舞い落ちて行った。
それが泰継の髪紐であることに気付き、驚いて顔を上げると、目の前に広い背中があった。
瞬時に、花梨は泰継に庇われたのだと悟った。
花梨がまともに受けるはずだった怨霊の攻撃を防いだのは、泰継が咄嗟に作った障壁だったのだ。

障壁に風が遮られ、それまで風を受けて靡いていた翡翠色の長い髪が、名残の風にふわりと一度舞い上がった後、まるで水が落ちるようにさらさらと流れ落ちた。
怨霊との戦闘中だということも忘れ、花梨は暫しその美しさに目を奪われた。

「怪我はないか?」

綺麗な人は髪の毛一本まで綺麗なのだなと、ぼんやり考えていた時、泰継が半分だけ顔を後ろに向けて声を掛けて来た。
前髪の間から垣間見られたのは、翠玉のような瞳――。
その輝きに、花梨の目はまたもや釘付けになる。

「はい、大丈夫です!」
「そうか……」

元気良く答える花梨に短くそう返しただけで、泰継は再び怨霊と向き合った。

彼が前を向く刹那、翡翠色の髪の間から見えた翠玉の瞳に、怨霊と対峙している者のものとは思えぬ優しい色が浮かんでいるのが見えた。
それを見て頬を薄紅に染めた花梨は、翡翠色の長い髪に覆われた背中から目が離せなくなった。


この日以来、翠色は、花梨にとって特別な色となった。





◇ ◇ ◇





龍神の神子の役目を終えて、花梨が泰継と共に現代に帰って来てから、もうすぐ二回目のクリスマスがやって来る。



「プレゼントは試験が終わってから用意するとして、ケーキはどうしよう……。泰継さん、生クリームが苦手みたいだから、苺のケーキは駄目だよね。お誕生日に作ったのが『美味しい』って言ってくれていたから、またオレンジのタルトにしようかな? でも、ケーキよりお料理の方が問題なのよね……」

腕組みをして椅子の背凭れに身体を預けた花梨は、ブツブツと独り言を呟きながら、う〜ん、と唸った。
来週に迫った期末試験に備えて自室で机に向かっていたのだが、苦手な英語の教科書を開いていた所為か、つい楽しい計画の方に意識が向かってしまうのだ。


クリスマス・イブの一ヶ月前から、花梨は勉強も手に付かないほど、来たるべき一大行事を泰継とどう過ごそうかと計画を練っていた。
昨年は、まだこちらの世界に来て間もない泰継に、クリスマスというものがどういう行事であるのか知ってもらいたいという花梨の希望もあって、こちらで出逢い現在は泰継の同居人かつ仕事上のパートナーである泰明、泰明の神子であったあかね、そして時折泰明を訪ねてやって来る天真と詩紋に天真の妹、蘭も加わって、皆で泰明と泰継が暮らすマンションに集まり、クリスマス・パーティーを催した。
それはそれで楽しかったのだが、やはりクリスマス・イブと言えば恋人達の一大イベントである。想い想われる相手がいる以上、二人きりで過ごしたいと思うのが乙女心――。
現代に来て一年余りが過ぎ、既に泰継もこちらの世界に慣れたことでもあるし、今年こそは二人きりでクリスマス・イブを過ごしたい、と花梨は思う。
それはあかねも同じだったらしく、今年のクリスマス・イブは泰明と二人、夜景の美しさで有名なホテルの最上階にあるレストランでディナーと洒落込むらしい。もちろん、泰継より半年ほど先にこの世界にやって来たに過ぎない泰明にそのような計画を立てられる訳がなく、それがあかねの発案であることは容易に想像出来た。あかねと二人きりで過ごせるのであれば、泰明に否などあろうはずがない。

(良いなぁ、あかねちゃん……)

先日あかねからその話を聞かされた時、花梨は思わず心の中でそう呟いていた。
だが、すぐに考えを改める。

羨ましくないと言えば嘘になる。
しかし、こちらに来て一年経ったとは言え、友達内で開催したクリスマス・パーティーを一度経験しただけの泰継に、リードを期待するのは無理だろう。
かと言って、やはり花梨には泰継にホテルでのディナーを強請る勇気はなかった。花梨がまだ高校生である以上、二人分の高価な夕食代を出すのは必然的に泰継になるからだ。
もちろん泰継のことだから、花梨が望めば間違いなくその願いを叶えてくれるだろうが……。

その対価に見合うものを、果たして自分は彼に返すことが出来るのだろうか?
自分と一緒にいるために、既に彼には京という掛け替えのない故郷を捨てさせているというのに。

そう思うからこそ、彼に無理を言いたくない。
――いや、言えなかったのだ。

(泰継さんと一緒にクリスマス・イブを過ごせるだけで良いよね……)

二度と会えなくなるかも知れなかった人と、二人きりで過ごせるのだ。それ以上を望むのは我が儘だと思う。
それよりも、どうしたら彼が喜んでくれるだろうかと花梨は考えた。

その結果、泰継のマンションで、ささやかだが二人きりの、手作りのクリスマス・パーティーを開くことに決めたのだった。





◇ ◇ ◇





クリスマス・イブ当日――。



二人で作った料理を食べ終えた後、今度はケーキを食べようということになり、切り分けたケーキを泰継に任せ、花梨は紅茶を淹れるためにキッチンでお湯を沸かしていた。

(やっぱり、特別な日に二人きりで過ごせるって、いいよね)

ケトルから立ち上り始めた蒸気をぼんやりと見つめながら、花梨はうっとりとした表情を浮かべてそんな事を考える。


今日は、昼過ぎに家まで迎えに来た泰継と一緒に買い物に出掛けて材料を揃え、レシピ片手に二人で料理を作った。最初、花梨は一人で作るつもりだったのだが、泰継が手伝うと言ってくれたので、その言葉に甘えることにした。何事も器用にこなす泰継は、料理も意外と得意なのだ。それは、こちらの世界に来てから食事の準備を自分でするようになったためなのだが、好奇心旺盛で研究熱心な性格ゆえに、今ではレパートリーもかなり多いらしい。
そうして泰継と二人で作った料理は、豪華さではホテルのレストランのディナーには及ばないが、花梨には一流シェフの料理より遥かに美味しく感じられた。

やはり、大切な人と一緒に過ごせることが一番大事。
今年のイブは二人でパーティーをすることにして正解だった、と花梨は思う。

(こうしていると、まるで新婚さんみたいだよね)

そう遠くない将来の自分達の姿を想像し、花梨は頬を赤く染めた。


時空を越えた大恋愛の末、京を捨てて一緒に行くと言ってくれた泰継と共に元の世界に帰って来たのは、昨年の秋のこと。
あの日から一年以上経った現在も、二人の互いへの想いは、変わらないどころか益々深く強いものとなっている。
しかし二人の想いに反し、京にいた頃や泰継がこちらに来たばかりの頃とは違い、最近では毎日会うことは難しくなっていた。泰継の陰陽師としての仕事が忙しくなって来たからだ。仕事に出掛けると、泰継は一週間くらい帰って来ないことも多い。実際ここ数日間、泰継は遠方に調伏に出掛けており、帰って来たのは昨夜遅くだった。
だから、今日のように数日ぶりに泰継に会いに彼の部屋を訪れた時などは、このまま一緒にいたいと思ったりもするのだが、やはり泰明という同居人がいる手前、そうすることは出来なかった。交際を始めて一年余りになる恋人同士としては、少々淋しい現状なのだ。
それでも少しでも長い時間一緒にいられるようにと、泰継はいつも花梨を自宅まで送り届けてくれる。彼も自分と同じ思いを抱いてくれているのだと信じられることが、花梨には何よりも嬉しいことだった。
しかも、そんな僅かな時間でも花梨と共にいたいと願っての泰継の行動は、実は思わぬ効果を齎していたりする。花梨の母親が、門限までに必ず花梨を家まで送って来る泰継に好感を持ち、何かと娘の恋を応援してくれているのだ。

ふと、出掛けに母親から耳打ちされた言葉を思い出し、花梨は瞬時に首まで真っ赤になった。

(お母さんったら、泰継さんの前であんな事言わなくてもいいじゃない……)

恐らく玄関先で待っていた泰継には聞こえなかったであろうことだけが救いである。


そんな事を考えている間に、ケトルの蓋がカタカタと音を立てていることに気付き、花梨は慌ててコンロの火を止めた。ぼうっと考え事に耽るうちに、危うく湯が吹き零れるところだった。
ふぅ、と小さく息を吐いた後、心を落ち着けるために深呼吸を繰り返す。赤くなった顔のままリビングに戻ると、泰継に「何かあったのか」と問われるに決まっているからだ。彼のことだから、既に先程の花梨の気の乱れに気付いているかも知れないが。

(もうっ。お母さんの所為だからね!)

心の中で母親に悪態を吐くと、花梨は急いでお茶の準備を整え、泰継が待つリビングへ戻った。







「花梨。これを、お前に……」


花梨が戻って来るのを待ち兼ねていたように、泰継が花梨にある物を差し出した。
彼が手にしていた物を見て、花梨はきょとんとした表情を浮かべた。突然の事に、大きな目を丸くして硬直する。
それを見て思わず笑みを零した泰継は、花梨の手を取り自分の方に引き寄せると、それを花梨の掌に載せた。

綺麗にラッピングされた小箱――。
どこから見てもプレゼントだ。

「泰継さん。これ…?」

花梨が訊ねると、即座に「クリスマス・プレゼントだ」との答えが返って来た。
それを聞いて、花梨は再び目を見開いた。
もちろん、花梨は泰継へのプレゼントを用意して来た。しかし、催促するようで気が引けたので、クリスマス・プレゼントについて泰継に説明したことはなかった。それに皆でパーティーをした昨年のクリスマスはプレゼントの交換をしなかったので、まさか泰継が自分へのプレゼントを用意しているとは思わなかったのだ。
花梨の反応を見て、泰継は訝しげな表情を見せた。
「クリスマスには恋人に何か贈るものだと教えられたのだが……。違ったか?」
「ううん、そうじゃないです!」
泰継の顔から笑みが消えていることに気付き、花梨は慌てて首を横に振った。
「ただ、泰継さんが私にプレゼントを用意してくれていたなんて、思いもしなかったから……」
俄かに湧き上って来た嬉しさに、花梨の顔が綻んで行く。

「ありがとう……」

はにかんだ笑顔で礼を言う花梨を見て、泰継は漸く微笑みを浮かべた。

柔らかなその笑みに暫し見惚れていた花梨は、自分も泰継にプレゼントを渡さなくてはいけなかったことに気付き、ソファの脇に置いてあった紙袋の中から包みを取り出した。淡香色に見えそうな包装紙を探し、自分でラッピングしたものだ。

「これ、私から泰継さんに……」

花梨がプレゼントの包みを手渡すと、泰継はそれをすぐには開けず、膝の上に置いて手を触れたまま、愛する者を見守るような優しい目でじっと見つめている。
まるで自分が見つめられているように思えて、何となく恥ずかしくなった花梨は慌てて付け加えた。

「あまり期待しないでね。試験が終わってから急いで作った物だから」
「花梨が私に贈ってくれた物を、私が喜ばぬはずがないだろう?」

宝物を手に入れた子供のような無邪気な笑顔を向けられ、花梨の頬が薄紅に染まる。
泰継がこのように満面で喜びを表すことは珍しい。それだけに、このプレゼントを彼が如何に喜んでくれているのかが伝わって来て、贈った方としても嬉しい。
「開けても良いか」と声を掛けた後、泰継は花梨が見守る中、淡香に似た色の包装紙を開けていく。

中から出て来たのは、深い茶色の手編みのマフラーだった。
泰継はそれを手に取り、広げて見た。
一目一目、丁寧に編まれたマフラー。
背が高い泰継に合わせ、少し長めに作られたそれは、きっと編むのに時間がかかったことだろう。
マフラーを編む花梨の姿を思い浮かべた泰継は、知らぬ間に口元を綻ばせていた。
包装紙越しに手を触れているだけで、花梨の暖かな気が感じられたのだが、こうして直接手を触れると、その一目一目に込められた花梨の想いが伝わって来るのだ。
思えば、花梨が贈ってくれる物はいつも、自分自身の事には無頓着な泰継の身体を気遣っての物ばかりだった。こちらの世界に来て初めての贈り物であった革製の手袋にしても今回のマフラーにしても、北山の厳しい冬の寒さに慣れていた所為か、真冬でも未だ薄着で過ごしてしまう恋人が、風邪など引かないようにと心配しての贈り物なのだろう。
花梨がどれほど自分を想ってこれを作り、贈ってくれたのかを思い、泰継は胸が熱くなるのを感じた。

「あ、あのね。一生懸命編んだんだけど、所々目が揃っていないの」

じっとマフラーを見つめたまま動かない泰継に、花梨は言い訳するように言葉を継いだ。棒針で編み物をしたのは初めてだったので、細部までじっくり見られると恥ずかしい出来なのだ。
――だから、あまり見ないで……。
花梨がそう続けようとした時、泰継が呟いた。

「花梨の気が込められているな……」
「えっ?」

予想外の事を言われて驚く花梨の前で、泰継はソファから立ち上がり、マフラーを首に巻いてみた。
その途端、首だけではなく、全身を何か温かいものに包み込まれたように感じた。

「暖かい……」

マフラーを手にした時に感じたのと同じ暖かさが心地良い。
全身を包むこの暖かさは、このマフラーに込められた、花梨が自分を想う心が齎すものなのだろうと泰継は考える。
胸元に視線を落としていた泰継は、驚いた表情を浮かべたまま自分を見上げている花梨に顔を向けると、見る者すべてを魅了するような美しい微笑みを浮かべて言った。

「こうしていると、まるで花梨に抱き締められているようだ」
「や、泰継さん……」

さらりと凄い事を口にする泰継に、紅潮し易い花梨の顔は一瞬にして真っ赤になった。同時に心臓が早鐘を打ち始める。耳元で激しく打ち付けているように聞こえる鼓動の所為で、泰継が「ありがとう」と礼を言うのも耳に入らないくらいだった。

(泰継さんって、時々凄い殺し文句を口にするよね……)

しかも全く自覚がなかったりするから始末が悪い。
その度にこれ以上ないくらいに赤面させられる花梨だが、嬉しくないと言えば嘘になる。
ただ、彼に微笑みかけられた上、こんな事を言われて落ちない女はいないだろうと思うだけに、他の人には絶対に言って欲しくないとは思うのだが……。


ふと我に返ると、泰継の視線が花梨から逸れていた。
彼の視線を追い、その先にある物を見て、はっとする。
ガラステーブルの上に先程から忘れられたようにぽつんと置かれた、自分自身が花梨に贈ったプレゼントを、泰継は見つめていたのだ。
その表情を確認し、早く中を見て欲しいのだろうと悟った花梨は、慌ててそれを手に取った。

「私も開けさせてもらいますね!」

叫ぶように宣言すると、花梨は包みを開け始めた。
パステル・オレンジの包装紙の下から、白い小さな箱が現れる。その箱にきっちりと収められたケースの中から出て来た物の美しさに、花梨は思わず目を奪われた。

「わぁっ、綺麗!!」

それは、ペンダントだった。
ペンダントトップにエメラルド、そして銀白色に輝くプラチナのチェーンを通すための金具と台の接続部には、小さなダイヤモンドが脇石として埋め込まれている。翠緑に輝く石が目を引くものの、見た目の派手さはなく、上品で大人っぽいデザインである。
花梨はペンダントをケースから取り出し、掌の上に載せてじっと見つめた。少し角度を変えてみると、色の違う二つの石が、ダウンライトの光を受けてキラキラと輝いた。
その輝きを観察していた花梨は、ふと我に返った。

(これ…。もしかして、高いんじゃ……?)

アクセサリーの中ではペンダントが一番好きな花梨は、自分の小遣いを貯めて買える程度の値段の物なら幾つか持っている。しかし、今手にしている物は、それらの安価な物とは明らかに輝きが違うのだ。

(う、嬉しいけど、きっとこれ、高校生が持つものじゃないよ、泰継さん……)

花梨が彼に贈った物とは、二桁くらい値段に差がありそうだ。
分不相応な物を貰ってしまったような気がして、少し戸惑った表情を見せた花梨に、泰継は告げた。

「以前、花梨は翠色が好きだと言っていただろう? だから、常に身に着けられるよう、翠玉の首飾りを贈りたいと思ったのだ」

泰継のその言葉に、花梨は大きく目を見開いた。

「お前に贈るのならリングの方が良いとあかねには言われたが、リングでは常に身に着ける訳にはいくまい」

花梨の通う高校が校則の厳しい学校であることを、泰継は知っていた。だからリングではなく、少し長めのチェーンを付ければブラウスの下に隠れてしまうペンダントを選んだのだ。

「花梨の瞳に似た色だ」

そう言って微笑む彼に、先程抱いた戸惑いが綺麗に払拭されてしまった。

翠色が好きだと泰継に話したのは、恐らくまだ京にいた頃だったと思う。
しかも、何かの話のついでに一度話したことがあるだけだったはずだ。
それなのに覚えていてくれたばかりか、プレゼントを選ぶ際にもそれを考慮に入れてくれたことが嬉しい。

(だけど――…)

花梨は再び翠色の石に目を落とし、心の中で考えた。

(だけど、きっと彼は知らない。
 私が何故、翠色が好きになったのかを――…)


『花梨の瞳に似た色だ』


泰継はそう言うけれど……。
エメラルドの翠緑の輝きは、むしろ泰継の左目そのものだと花梨は思う。

――こちらの世界に来る以前の――…。


そんな事を考えていると、
「花梨。それを貸せ」
そう言いながら、泰継が手を伸ばして来た。
何だろうと思いつつ花梨がペンダントを手渡すと、泰継はペンダントヘッドに手を翳して呪を唱え始めた。

「――泰継さん…?」
「お前の護りとなるよう、この石にまじないを施した。天然の石は、本来霊力を持つ物だからな」

泰継が呪を唱え終わるのを待って花梨が声を掛けると、泰継はそう説明した。
宝石店で見せられた物の中から、護り石として最も力のある石を選んだのだと話す泰継に、花梨はぽかんとした後、小さく笑い声を上げた。
装飾品としての価値や美しさ、そして値段よりも、宝石に宿る力を基準にプレゼントを選ぶとは、何とも彼らしいと思ったのだ。

「立ってみろ」

チェーンを広げ、泰継が花梨を促す。
言われるままに立ち上がると、泰継が背後に回り、ペンダントを着けてくれた。
淡いクリーム色のセーターに、ペンダントの翠色が良く映える。
胸元を彩る翠色の輝きに見惚れていた花梨が視線を感じて顔を上げると、いつの間にか前に回っていた泰継と目が合った。

「良く似合う」

そう言って優しく微笑むから……。
頬を染めた花梨の視線は、その柔らかな微笑みに釘付けとなってしまう。

「私の気も込めたから、出来れば常に身に着けておいて欲しい」

一度仕事に出掛ければ、一週間ほど帰って来られないこともある。
その間、この護り石が自分の代わりに僅かでも彼女を守る助けとなれば良いと、泰継は思う。
もちろん、会えない時にこのペンダントを見て、花梨が自分の事を想ってくれれば、との思いもあるのだが――…。

はにかみながら「はい」と頷く花梨に、泰継の胸は愛しさで満たされる。


「泰継さんも、そのマフラー、使って下さいね。」

――見栄えはあまり良くないけど……。
小さな声でそう付け加える花梨に、泰継は満面の笑みを向ける。

「無論。外出する時だけでなく、眠る時にも使いたいくらいだ」
「え…?」
「お前の気が込められた物だ。よく眠れるに違いない」
「や、やすつぐさん……」


『まるで花梨に抱き締められているようだ』

先程の泰継の言葉を思い出し、花梨の顔は瞬く間に赤くなった。無自覚な殺し文句に赤面させられるのは、既に本日何度目か分からない。
高鳴る鼓動が泰継にまで聞こえそうで、恥ずかしくなった花梨はとうとう泰継に背を向けてしまった。

後ろを振り向くと、目の前にベランダに続くガラス戸があった。
既に外は暗い。そのため、ガラス戸がまるで鏡のように室内の様子を映し出している。
熟れたトマトの如く真っ赤になった自分の顔と向かい合うことになった花梨は、慌てて視線を外に向けた。

「あっ!」
「花梨。どうした?」

突然声を上げ、顔をくっ付けるようにしてガラス越しに外を見ようとしている花梨を訝り、泰継が歩み寄る。
泰継が背後で立ち止まるのを感じ、花梨が後ろを振り返った。

「泰継さん。ほら、雪が降ってる!」

満面に嬉しそうな笑みを湛えて花梨が告げると、その表情を見た泰継が軽く目を瞠った。
彼女の言葉に促されるように外に目を向けると、いつの間か雪が舞っていた。

「雪など、珍しくないだろう」
「だって、今日はクリスマス・イブだもの」
「?」

意味が解らないと言わんばかりに泰継が首を傾げているのに気付き、花梨が説明する。

「“ホワイト・クリスマス”と言われるくらい、クリスマスに降る雪は特別なんです。だって、ロマンチックでしょう?」
「…………」
「暖冬の年が多くて、最近は年内に雪が降ることってあまりなかったし……」

それだけを話すと、花梨は再び視線を戻し、ガラスの向こうの光景に見惚れている。
その横顔を見つめながら、泰継は再び首を傾げた。
“ロマンチック”という外国から来た言葉が表す意味は朧気ながらも理解しているつもりだが、それとガラス戸の向こうに見える雪がどのように結び付くのか解らなかったのだ。
こちらの世界で降る雪は、京の雪と何ら変わらないように見えるのだが――…。

いつもの癖で、つい思索に耽りそうになった泰継を引き戻したのは、暖房の利いた室内に突然流れて来た冷たい空気だった。
ガラス越しに外を見ていた花梨が、いつの間にか戸を開けて、ベランダに出ていたのだ。



「う、やっぱり寒い…!」

ガラス戸を開けて一歩外に出た瞬間、花梨は思わず首を竦めた。
音も無く降る雪を見ているうちに、直接手を触れてみたくなってベランダに出てみたものの、外はやはり寒い。
雪が掛からないよう、ペンダントヘッドを手で握ると、花梨は空いていた右手を広げ、落ちて来た雪を受け止めた。
綿菓子か羽毛のような、ふわふわとした綿雪は、崇道神社で初めて見た京の雪と同じだった。
(皆、元気にしているかな……)
ふと、仲間達の面影が目に浮かぶ。

空を見上げようと花梨が顔を上げた丁度その時、突然強い風が吹き付けて来た。その風に乗り、綿雪が次々と顔にぶつかって来る。
「冷た…っ!」
堪らず花梨が目を閉じた時、それまで容赦無く吹き付けていた風と雪がぴたりと止んだ。
不審に思い目を開けてみると、目の前にあったのは、焦茶色のマフラーを垂らした広い胸――。
泰継が自らの身体を盾にしてくれたのだと、瞬時に悟った。
花梨が顔を上げて視線を合わせると、泰継の口から深い溜息が漏れた。

「お前の無謀さには、随分と慣れたつもりだったが……。上着も着ずに外に出て、風邪を引いたらどうするのだ」
「だ、だって! 雪に触りたくなったんだもの」
「全く……。お前は目が離せぬ」

呆れたように呟くと、泰継は首に巻いていたマフラーを外した。それを花梨の首に巻いてやると、花梨は膨らませていた頬を赤らめた。
それを見て微笑んだ後、泰継は空を見上げた。
時折起きる風に煽られ、降る雪が空を舞っているように見えた。



風が、翡翠色の髪を靡かせる。
その様を、花梨は不思議な面持ちで見つめていた。
あの日、怨霊が起こした風を受け、まるで流れるように靡いていた、長く美しい絹糸のような髪が脳裏を過ぎる。
京では長かった泰継の髪は、こちらの世界で再会した時には既に短くなっていた。さらさらの長い髪を羨ましく思い、そして大好きだった花梨は、こちらの世界に来て彼が髪を切ってしまったことを少しだけ残念に思ったものだった。
しかし、あの日花梨の目を釘付けにした翠色は、今もなお花梨の視線を釘付けにして逸らせなくするのだ。

視線を感じた泰継が、空に向けていた顔を花梨に向けた。
その瞬間、少し長めの前髪が風に煽られ、普段はその下に隠れ気味の彼の左目が露になる。
それを見てはっとした花梨は、胸元に視線を落とした。
握っていた手を広げ、掌の上の翠緑の輝きを確かめる。
こちらに来て右目と同じ琥珀色に変わったという泰継の左目は、元はこのエメラルドのような翠色だった。
花梨が好きになった翠色の――…。


「さあ、もう中へ入れ」

泰継が部屋へ戻るよう花梨に促した。しかし、泰継の声が聞こえなかったのか、花梨は手にした翠玉の首飾りをじっと見つめて、なにやら考え込んでいる。

「……花梨?」
泰継が名を呼ぶと、はっとした表情を見せて、漸く花梨が顔を上げた。
「あ、ごめんなさい」
「謝る必要はないが……」

言いさしたまま怪訝そうに見下ろしている琥珀色の瞳を、花梨は真っ直ぐに見つめ返した。
初めて会った時、あまりの美しさに目を奪われた色違いの瞳は、一色に揃えられた今も、花梨を惹き付けて已まない。
現在の彼の瞳の色である琥珀色も、花梨の好きな色だった。

(お金を貯めて、次は琥珀のアクセサリーを買おうかな)

そんな事を考えながら、再び掌の上の翠色に目を落とす。

(エメラルドと琥珀を並べたら、泰継さんの瞳みたいで綺麗だよね、きっと……)

翠玉の首飾りを見つめたまま、今度はふふふと笑みを漏らした花梨に、泰継が訝しげな視線を向けている。
それに気付いた花梨は、今まで彼には話さず隠していた小さな秘密を話すことにした。

「泰継さん」
「何だ」
「どうして私が翠色が好きなのか、解りますか?」
「?」

唐突に振られた話題に、泰継が狐に摘まれたようなきょとんとした表情を見せた。
それを見て、花梨がくすりと笑う。

「私、京に行く前は、ああいう淡いオレンジ色が好きだったの」
話しながら花梨が指差した先を見ると、泰継が彼女に贈ったプレゼントを包んでいたパステル・オレンジの包装紙があった。
「もちろん今も嫌いじゃないけど、それ以上に好きな色を、京で見つけたから……」

不意に、花梨が泰継の方に手を伸ばした。
翡翠色の髪に付いていた雪を払い落とすと、左目に少し被さっていた前髪を手櫛で梳き始める。
突然の花梨の行動に驚き、どう反応したら良いのか判断しかねたように、泰継はされるままにじっとその場に立ち尽くしていた。
やがて、花梨は泰継の長い前髪を梳き上げたまま手を止め、物問いたげに見下ろしている澄んだ双眸を真っ直ぐに見つめ返すと、今まで彼には話していなかった、自分が翠色を好きになった理由を告げた。


「泰継さんの髪と瞳の色だったから……。だから、翠色が好きになったの」


ぴくりと長い睫を震わせて瞬きした後、泰継はゆっくりと琥珀色の瞳を見開いた。
いつもの泰継らしからぬ、まるでスローモーションのようなゆっくりとした動作に、彼の驚きの大きさが表れているようだった。
呆然としたまま自分を見下ろしている恋人に微笑みかけると、花梨は手を下ろした。支えを失った髪が、さらさらと流れ落ちる。
淀むことなく流れ落ちる髪を心の片隅で羨ましく思いながら、花梨は続けた。


「私にとって翠色は、泰継さんの色なの」


風に靡く翡翠色の髪も
エメラルドそのもののような翠色の瞳も
彼と初めて出逢った北山の緑も

泰継を想う時、花梨の脳裏に浮かぶものは、いつも翠色で彩られている。


「だから、私は翠色が一番好き……って、やっ…泰継さんっ!?」

最後まで言う前に、突然抱き寄せられたかと思うと強く抱き締められて、驚いた花梨が声を上げた。
今度こそ激しく打ち続ける胸の鼓動が彼に伝わっただろうと思うと、自ずと頬が紅潮する。
ベランダで抱き合っていると誰かに見られそうで恥ずかしいとの思いはあるが、こういう時泰継がなかなか放してはくれないことを、花梨は今までの経験から知っていた。
観念したように小さく息を吐くと、力を抜いて彼の胸に身体を預けて目を閉じた。
こうしていると、雪が舞う寒空の下にいるのだということを忘れてしまうくらい暖かい。
心が温かいと寒さを感じないのだろうか、などとぼんやり考えていると、耳元で泰継が囁く声が聞こえて来た。

「花梨。私も……」

泰継は一旦言葉を切って、花梨を抱き締めていた腕を緩めた。それを感じ取った花梨が、身体を起こして彼の顔を仰ぎ見る。
花梨が視線を合わせたのを確認してから、泰継は告げた。

「私も、翠色が好きだ」

泰継の言葉を聞いて、花梨が目を瞠る。彼が翠色が好きだというのは、初めて聞いた話だった。
驚きが去ると、今度は少し悔しい気持ちが湧き上って来る。
(先にそれを聞いていれば、緑系の色の毛糸を買ったのに……)
落ち着いて見える間色なら何でも似合う泰継だから焦茶色のマフラーも似合っていたけれど、好きな色があるのならそれにすれば良かったと思ったのだ。

「何故か解るか?」

さっき自分が彼にしたのと同じ質問を投げ掛けられて、花梨は小首を傾げて少しの間考えた。
「――草や木が好きだから?」
植物や動物と話ができ、長い歳月を北山の奥深くで過ごして来た彼は、やはり自然の中にいるのが似合うと花梨は思う。こちらの世界に来てからも、このマンションの近くにある神社の境内で、木々に囲まれ神域独特の霊妙な空気に包まれて時を過ごすことが、泰継は好きなようだった。
だから花梨はそう答えたのだが――…。

花梨の返答を聞いて、泰継の顔に笑みが浮かぶ。

――本当に、花梨は何も解ってはいない。自分がどれほど強く、私を捉えて放さない存在であるのかを。

泰継は手を伸ばし、花梨の前髪に触れた。先程自分がされたのと同じように、花梨の髪を指で梳き上げる。何故泰継が笑ったのか解らず、瞬きを繰り返している大きな瞳をじっと見つめ、泰継は微笑みかけながら言った。


「――花梨の瞳の色だから、だ」


大きく見開かれる緑色の瞳。
くるくるとその時々で変わる表情豊かな大きな瞳は、本当に見ていて飽きない。
そして、その生き生きと輝く様はどんな宝石よりも美しい。

泰継がそんな事を考えた時、花梨の顔が嬉しそうな笑顔に変わった。
次の瞬間―――。

「泰継さんっ!」

名を呼ぶのと同時に、花梨が胸に飛び込んで来た。
軽い衝撃と共にしがみ付いて来た華奢な身体を受け止めると、泰継は花梨を腕の中に閉じ込めた。


花梨を抱き寄せたまま、泰継は暫くの間雪の中に立ち尽くしていた。そろそろ中に入った方が良いだろうとは思うのだが、何故かもう暫くここでこうしていたいと思ってしまうのだ。
暖かい部屋の中より、雪の降る屋外の方が、互いのぬくもりをより強く感じることが出来る所為だろうか。
花梨の髪を梳きながら、泰継はふと空を見上げた。
風は弱くなったようだ。
ただ、真っ白な雪だけが、音も無く静かに降り続いている。
その様子を眺めながら、泰継は“クリスマスに降る雪は特別なのだ”という、花梨の言葉を思い出していた。

(確かに、その通りだな……)

恋人達が二人きりで過ごすクリスマスが雪が降るほど寒い日であれば、自然と身を寄せ合い、互いのぬくもりを感じやすいということなのだろうと、泰継は理解した。
普段の自分であれば、花梨に風邪を引かせないよう、彼女がここにいたいと言っても有無を言わせず部屋の中に連れ戻しただろうに、今日に限ってそうすることが出来ないのも、きっとその所為なのだろう。

そして何よりも――…。



「困ったな……」


嘆息と共に頭上から聞こえて来た微かな呟きに驚き、泰継の腕の中でじっとしていた花梨が身体をぴくりと動かした。泰継が漏らした呟きには、感情表現に乏しい彼にしては珍しく、心底から“困った”という感情が込められていたからだ。
花梨が顔を上げると、果たして困り果てたような表情を浮かべて、泰継が見下ろしていた。
その表情に吃驚した花梨は、目をぱちくりとさせた。
彼のこんな顔を見たのは初めてだった。
突然目の前に百鬼夜行クラスの怨霊が現れても、涼しい顔をしていそうな人なのに――…。
その彼を困らせるものが何であるか、全く見当が付かなかったので訊ねようとした時、花梨の疑問に答えるかのように泰継が言った。

「何故だろうか。今宵は、お前を帰したくないと思ってしまうのだ」

いつもなら、このまま花梨をここに留め置きたいと思っても、その気持ちを抑えて門限までには家に送り届けていたというのに……。

泰継の言葉を聞いた瞬間、花梨の顔は今までにないくらい真っ赤になった。
何か答えなくてはと口を開いたものの、一言も言葉が出て来ない。
花梨が口をパクパクさせているうちに、泰継が先に言葉を継いだ。

「母君の許しも得られたのだ。今日は私の傍にいてはくれないだろうか?」

「え?」

泰継が言っている意味をすぐには理解出来ず、花梨がぽかんと口を開ける。
しかし次の瞬間、出掛けに耳元で囁かれた母の言葉を思い出し、花梨は漸く泰継の言う“母君の許し”の意味を理解した。


『今日はお父さんも出張中でいないし、泰継さんちに泊めてもらったら?』


母のその一言は、花梨にとっては泰継に最も聞かれたくなかった爆弾発言だった訳で――…。


「もしかして、聞こえていたんですか!?」
「ああ」

あっさりと肯定する恋人を前にして、花梨は顔から火が出る思いだった。
泰継が京で花梨に見せた驚異的な身体能力は、人となって多少落ちたとは言え、やはり並の人間に比べればずば抜けている。他の人間には聞き取れないくらい小さな声でも、聴覚の優れている泰継には筒抜けになってしまうのだ。
しかし花梨が知っていたのは、彼がその細身の身体からは想像出来ないくらい強い力を持っているということだけだったので、まさか母に耳打ちされた言葉まで聞かれていたとは思いも寄らなかったのだった。

(も、もうっ! お母さんってば、どうしてくれるのよーーっ!)

恥ずかしくて泰継の顔を直視出来なかった。

嫌、という訳ではない。
今までその機会が無かったことを、心のどこかで淋しく思っていたのも事実だ。
泰継とは出来るだけ長い時間一緒に過ごしたいと、いつも思っている。
特に今日は、恋人達が共に過ごす、特別な日だから――…。

しかし、ここには泰継だけではなく、泰明も住んでいるのだ。
恋人の兄弟とは言え、他の男もいる部屋に一人で泊まる勇気は、花梨にはなかった。
それを何とか泰継に解って貰おうと、花梨は最後の抵抗を試みる。

「で、でも、泰明さんは? 今日は遅くなるかもしれないけど、帰って来るんでしょう?」
「泰明なら、今日は帰って来ない」
「えっ?」
「夕餉を食べた後、あかねとそのホテルに泊まると言っていた」
「えぇぇーーーっ!?」

大声を上げた花梨を、泰継が不思議そうに見つめている。

(あかねちゃん、泰明さんと一緒に泊まるんだ……じゃなくて…! 女子高生をホテルに連れ込んだりしたら、犯罪だよ、泰明さん!!)

頭が混乱して、思考が妙な方向に向かう。
明らかにパニックを起こしている花梨を見て、泰継が顔を曇らせた。

「花梨は、私と共にいてくれぬのか?」

駄目押しのその一言に、花梨はとうとう陥落した。
胸元に手を遣り、泰継が贈ってくれた護り石のエメラルドをぎゅっと握り締める。
心を決めた花梨は、次の瞬間、泰継の首に両腕を回して抱き付いた。
目の前で、翡翠色の髪が弱い風を受けて揺れている。
泰継に気付かれないよう、そっとその髪に口付けると、花梨は彼の耳元に口を寄せた。

「今日は、私と一緒にいて下さい」

耳元で囁かれた言葉に、泰継が大きく目を瞠る。

「私も、泰継さんと一緒にいたい……」

小さな声で告げられた花梨の想いに、泰継は相好を崩した。

「――花梨……。私に顔を見せてくれ」

抱き付いて来た身体を一度だけぎゅっと強く抱き締めた後、泰継は腕の力を緩めて花梨に乞う。

「お前の瞳が見たい」

いつになく甘く響く囁きに、花梨が腕を緩めると、熱を宿した琥珀色の瞳が間近で見つめていた。
暫くの間見つめ合った後、お互いの瞳の輝きに引き寄せられるように顔を近付けた二人は、唇を重ね合った。







〜了〜


あ と が き
『遙か2』のオンライン企画、「遙か2祭」に投稿させて頂いた作品です。お題は「靡(なび)くグリーン」でした。
サーチから初めて企画サイトにお邪魔した際、アップされていた25個のお題(当時はまだ半分の数だったのです)をざっと見て、おぼろげながらもイメージが思い浮かんだのがこのお題でした。「『遙か2』で“靡く緑色のもの”と言ったら、これはもう泰継さんの髪しかあるまい」という、いつもながら非常に判り易い発想で、お恥ずかしい限りです(^^; でもこのお題、絵描きさんに描いてもらった方が良かったかなと、今さらながらに思ってみたり……。
誕生日以外の行事物に初めて挑戦してみたものの、やはり苦手だな〜と再確認しました。
思い切り季節を無視したクリスマス創作にも拘わらず読んで下さった皆様、ありがとうございました!
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